マルクス兄弟のコメディー映画の廉価盤DVDのセット、『スペシャルコレクション』と『プレミアムコレクション』が出ている。
これまでは高いDVDしかなかった『ラブ・ハッピー』や、ほかのレア作品も入っているのがニュースだ。
マルクス兄弟の主要な作品はすでにDVDで所有しているぼくも、これらの作品はちゃんとした形で見たことがないので、近いうちに買って見てみたい。
人が感じる幸せのパターンは数限りなくあるけれど、真夏の昼下がりにクーラーのきいた部屋で冷たいものを飲みながら古いコメディー映画を見るのって、人生の中でもけっこう純度の高い幸福を感じられるひとときなんじゃないかと思う。
マルクス兄弟とグルーチョの入手困難作品も複数収録
今回のDVDセットのタイトルはそれぞれ
『マルクス兄弟 スペシャルコレクション』
と
『マルクス兄弟 プレミアムコレクション』
で、廉価クラシックDVDではおなじみのコスミックから出ている。
そして今回の目玉の『ラブ・ハッピー』(「ラヴ・ハッピー」と表記するのがいちおう正式かな)は、前者のスペシャルコレクションのほうに含まれている。
『ラブ・ハッピー』の邦盤は、これまではジュネスから出ていた価格の高いDVDしかなかったから、思いがけず廉価になっているのを発見してしまいうれしさが止まらない。
このセットには、グルーチョが単独で出演した『悩まし女王』という作品も入っていて、これもレアだ。
後者のプレミアムコレクションのほうにも、『ダブル・ダイナマイト』というフランク・シナトラの映画と、『マルクスの競馬騒動』という、いずれもグルーチョが出演している作品が含まれている。
そちらも見てみたいけど、今回どちらかだけを買うとしたら、ぼくはスペシャルコレクションを優先したい。
マルクス兄弟の映画をどれから見たらいいか
マルクス兄弟を名前くらいしか知らない人でも、こういうグッズは知っていると思う。
パーティーグッズとしてすでに記号化しているこのヒゲ鼻メガネの仮装は、グルーチョ・マルクスの風貌が元ネタだ。
そして志村けんさんと沢田研二さんの傑作鏡コントも、オリジナルのシーンが彼らの『我輩はカモである』の中にある。
こんなふうにその後のコメディーやギャグ、舞台芸に多大な影響を与えたのが、この時代のコメディー映画、とりわけハロルド・ロイド、チャーリー・チャップリン、バスター・キートン、そしてマルクス兄弟の映画だった。
そういえば元ネタといえば、その『我輩はカモである』の劇中で、夜中にチコとハーポが屋敷に忍び込んでいるのをごまかそうとしたグルーチョが「(あの音は)鼠じゃないかな」といったのを受けて、マーガレット・デュモンおばさんが「Mice don't play music!」と返すせりふがある。
「鼠は音楽を奏でない」。
このシーンを見たとき、村上春樹さんの『ノルウェイの森』で、主人公の先輩の彼女(ハツミさんだったっけ)に「でも鼠は恋をしないわ」という印象的なせりふがあったのは、きっとこれが元ネタだったのだろうなと思ったことがある。
そうそう、クイーンのアルバム『オペラ座の夜』も、マルクス兄弟の映画のタイトルからとったものだ。文芸や音楽にまで彼らの影響は及んでいるといえるかもしれない。
もしこれからマルクス兄弟の映画を初めて見るなら、年代順に見ていってもいいけれど、ぼくは『我輩はカモである』か『オペラは踊る(オペラの夜)』をまずおすすめしたい。
都合よくというかなんというか、先に紹介したDVD集とはまた別のアンソロジー『爆笑コメディ劇場』に、ちょうどその2作が入っている(ぼくも持っています)。
キートンも含めて未見作品が多いなら、それぞれの代表作が収録されているのでおすすめの選集だ。ただビルの時計にぶら下がるシーンで有名なロイドの『要心無用』がないのはちょっと惜しいし、チャップリンについては、さほどでもないという感じではあるのだけど。
マルクス兄弟の収録作品は『我輩はカモである』『オペラは踊る』。
ほかに『キートン将軍』『キートンの蒸気船』を含むキートン3作、ロイド2作、チャップリンの短編7作。
しゃべらないバスター・キートンの作品は字幕がなくても面白い(下の動画参照)。でもマルクス兄弟の映画は、字幕なしではせりふの面白さが伝わりにくい。
『ラブ・ハッピー』も昔YouTubeの動画で見たときにはドラマの筋もせりふの意味もよくわからず、堪能できなかった憾みがある。
字幕版で見て初めて理解できるところも多いだろうから、またあらためて見ることにしたい。マリリン・モンローも出て来るし。