『沖縄語(うちなーぐち)死語コレクション 増補・改訂版』という本が手元にある。
2年ほど前にサンエーのショッピングセンター内の書店で見つけて購入した。
この本についてはネットにはあまり情報がないのだけど、賀数仁然さんがお書きになった紹介記事を見つけた。
この本にはISBNコードがなく、Amazonなどで検索しても出てこない。
ただネットオークションやフリマサイト、県内古書店のネットショップに出てくることはあるようなので、入手が難しい本ということもなさそうだ。
内容はそれぞれの「死語」についての辞書的な語句説明に加え、多くの文献から引用した具体的なエピソードなども豊富に盛り込んであって、辞典でもあり同時に読み物でもあるといった感じの本だ。
時期的には、戦前から戦後の米軍占領下の時代あたりの言葉が多い。
かつての『おきなわキーワードコラムブック』が一般人の個人的な体験を集めたコラム集であり、そしてそれゆえの面白さがあったのに対して、こちらで引用されるエピソードはもう少し、昔を記憶している物知りが往時を語っているような、共通認識寄りの頃合いだ。
死語とはいっても、復帰後生まれの僕が知っている言葉もかなりある。
「かちゅーゆ」は死語になってほしくないと思うなあ。
かちゅーゆは風邪を引いた時に飲む簡易な味噌汁で、ちなみにうちでは卵は入れなかった。
味噌と鰹節だけの汁ものは、沖縄で「かちゅー湯」という。初めて食った時衝撃的に簡単で美味くて、死ぬまで味噌汁はこれでいいと思った。仕事してたら時間などない。市場に買い出しにも行けない。スーパーでいい。30分でいい。たった一手間、まずは半歩踏み出してくれ。料理は必ずリターンがある。
— 鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO (@yonakiishi) December 8, 2016
二日酔いのときにもいいらしいね。
また「がっぱい」は後頭部の出っ張りの事だと認識していたけれども、この本によれば、おでこの出っ張りをそう呼ぶそうだ。
自転車の「三角乗り」とか、そういえばそんな言い方もあったっけと思い出す。
「パタイ」は「死ぬ」という意味だが、これはてっきり人が「ぱたり」と倒れるさまをいっているのかと思っていたら、「殺す」という意味のタガログ語が由来なんだそうである。
「ん」で始まる言葉もいくつか載っている。
拒絶【んぱ】
拒絶。拒絶不承知の意を表す語。いやがること。相手の希望などをどうしてもいやだといって受け入れないこと。戦前の女学生の沖縄大和語(ウチナーヤマトグチ)による会話。「私がリカリカしてもあなたがンパンパするから、だー汽車は走ったよー」
この「リカリカする」とか「ンパンパする」のニュアンスはいまの若い人にも通じるだろうか。
とーとーめー・じゅーるくにちーのような伝統習俗由来の言葉もあれば、やまがっこう・くんだブレーキのような、子どもが使いそうな言葉も載っている。
B円、軍作業くとぅばのような戦後の言葉もあれば、首里親国(しゅいうぇーぐに)などというずっと古い時代の雰囲気を思い起こさせるような言葉もある。
巻末には標準語索引のほかに参考文献リストがあり、70冊近い参考文献が列挙されている。
この種の本によく出てくる古波蔵保好さん、外間守善さんの著作から、新聞社の発行した事典類、そして市史・村史に至るまで幅広く、多数の文献を渉猟した長年の研究がこの本に反映されていることがわかる。
頭に魚の入った金盥を乗せて路地を売り歩く「かみあちねー」のおばさんをぼくが最後に見たのは90年代だったか。
あのおばさんがもうやってくることはないと思うと少し寂しいが、そうした失われたものごとを言葉で残すことの意義もまた、この「死語コレクション」を読んで考えたことだった。