スティーヴン・ガイズさんの著書『小さな習慣』を読んで、僕も3つの習慣づくりを始めてみました。
『小さな習慣』は、数年前に発売されてベストセラーになり、多くの読者から高い評価を得ている本で、今回この本を初めて読んだ僕にも、好ましい変化をもたらしてくれています。
この記事では書籍『小さな習慣』のポイント、実践してみた感想と、方法論と達成目標のミスマッチなどについて考えたことを書いてみます。
『小さな習慣』のポイント要約と実践してみた例を紹介
まず、書籍『小さな習慣』の最も大切なポイントを紹介します。
本の帯にも書いてありますね。
小さな習慣とは何か
「小さな習慣」とはどのような習慣なのでしょうか。
小さな習慣は、この本の中ではこのように定義されています。
小さな習慣とは、毎日これだけはやると決めて必ず実行する、本当にちょっとしたポジティブな行動です。(『小さな習慣』p.1)
小さな習慣とは、あなたが新たな習慣にしたいと思っている行動を、もっともっと小さい形にしたものです。(p.34)
具体的には、本を読む、文章を書く、体を鍛えるなどの、将来にわたって自分が身に付けていきたい行為を、「毎日欠かさず、ほんの少しだけおこなう」こと。
それが、この書籍のテーマである「小さな習慣」の核心部分です。
もし将来的に健康のために毎日数km走ることを習慣化したいなら、「小さな習慣」では、10メートル走る、あるいは、靴を履いて外に出る、くらいまで小さくした目標を設定して、毎日続けていきます。
そんなふうに、毎日の行為そのものはあまりにも小さいにもかかわらず、それがもたらす達成がとてつもなく大きいことが、この本が多くの人々から評価されている理由なのです。
では、その習慣とは、どのくらい小さければいいのでしょうか。
最初の引用部分に続いて、本にはこう書いてあります。
“小さすぎて失敗すらできない”ものなので、気軽に取り組むことができ、それでいてびっくりするほど効果があるため、新しい習慣を身につけるには最適な方法といえます。(p.2)
要するに「小さすぎて失敗すらできない」ほどに簡単なことを毎日続けていこうというのが、この本のメッセージです。
習慣を「失敗すらできないくらい」、そして本の帯にもあるように、「ばかばかしいほど」小さくするのは、物事を始めるときにどうしてもついてくる抵抗感を、限りなく小さくするためです。
この小さな習慣を続けることで、本当は始めたいけどきっかけがなかったりおっくうだったりしてなかなか始められないこと、たとえばダイエットや語学の勉強などを、長続きする身についた習慣として作り上げていくことができます。
「小さすぎて失敗すらできない」
著者のスティーヴン・ガイズさんは、「小さすぎて失敗すらできない」行動の例として、以下の3つの例を挙げています。これはガイズさん自身が続けている習慣でもあります。
- 腕立て伏せを1回する
- 50ワードの文章を書く
- 本を2ページ読む
腕立て伏せをたった1回。
読書を2ページ。
たしかに、始めさえすれば、失敗に終わることはなさそうな行動ですね。
「50ワード書く」のはちょっと微妙ですが、英単語で50語をノートに書くとしたらだいたい4~5行程度の分量のようです。
最終的に文章を書くことを習慣づけようとするなら、この程度は大きな負担でもないのでしょう。
分量は増やしてもいいがノルマにはしない
これらの小さな行為は、クリアした後に気が向いたら、そのまま続けて分量を増やしていってもよく、腕立て50回とか、読書100ページとか、その日の体調や気分次第でいくらでも追加ができます。むしろ気分の範囲内で、そうすることが期待されています。
せっかく腕立て伏せを1回したのなら、続けて2回目、3回目もやろうと思うのは自然な成り行きです。そうした気分の自然な高まりも利用しながら、習慣化の力にしていくのです。
ただ、毎日続けて最低100語以上書けているからといって、ノルマのほうも50語から100語に上げてしまおうとしてはいけません。あくまでクリアすべき日課は「ばかばかしいほど小さい」ステップにとどめておき、それ以降の追加分は「おまけ」として扱います。
もし目標を大きくしすぎると、そのハードルの高さがいつか行動にブレーキをかけることになりかねないからです。
ターゲットが ”こっそり膨れ上がる(p.196)” ことは避けましょう。
繰り返しが習慣を強化する
始める前はおっくうに思えたことでも、その行為をばかばかしく思えるほどのミニサイズに縮小してしまえば、実行のハードルはほとんどゼロに近くなります。
そして、その簡単な行為を毎日続けているうちに、最初に感じられたような抵抗感もどんどん薄れていきます。
本の中では、脳の回路が強化されることによってそのような変化がもたらされると説明されています。
そしてその脳の回路の強化も、ごく小さい簡単な行動を繰り返すことによってのみ、抵抗感の強化につながらないように、行動が習慣として身についていくのだといいます。
「繰り返しが(潜在意識の)脳の言語である(p.50)」という指摘は重要なポイントです。
達成するのに抵抗を感じない分量の作業を日々繰り返すことで、効率的に習慣の綱を太くしていくことができます。
だからこそ、「どんな不調な日でも、気分に関係なく実行できる(本の帯より)」ことが必須の条件なのです。
目標の数は2つか3つがいい
ガイズさんは、「普通はふたつか3つの習慣がちょうどいい(p.136)」と書いています。
どれも簡単で短時間に終わらせることができるとはいえ、習慣を4つ以上設定すると注意力が分散し、どれかを怠ったり、忘れたりしがちになってしまうからです。
僕の実感としても、毎日4種類の作業をこなすとなると、負担感や義務感が増えそうで、楽な気持ちで続けるなら3つまでにしたほうがいいように思います。
僕が始めた3つの習慣
ガイズさんに倣って、僕も新しい習慣を3つ始めています。
現在、以下の3つを習慣づけようと、1か月ほど毎日欠かさず続けています。
- スクワットを1回する
- 文をひとつ書き写す
- 本を2ページ読む
ほぼガイズ氏の習慣を踏襲したものになっていますが、彼のように50語の文章を書くかわりに、僕は書籍やウェブサイトから文を一つ抜き出して、ノートに手書きで書き写すことにしました。
これは、ペン字の練習の実践編になればと考えたものです。
書き写す文のストックがなくなったら、その時は天気予報の「くもりのち晴れ・北よりの風のち東の風強く」でもなんでもいいので、とにかく毎日、最低1行は手書きで字を書きます。
時間がない時でも書くことを探さないでいいように、日替わりで名言が表示されるページもブックマークしました。
今までのところ、毎日欠かさず続けられていますし、どの習慣も最低限のラインはクリアして、それ以上にこなすことが多いです。本を読むのだけは2ページ限りで終えてしまうこともたまにはありますが、ほぼ毎日、「おまけ」もつけることができています。
脳に達成した報酬を与える
『小さな習慣』では、毎日の習慣を達成できたことに対して褒美を与える方法についても、項目を割いています。「報酬プランを考える(p.169)」がそれです。
状況に応じたいくつかの方法が例示されていますが、簡単で具体的な方法としては、カレンダーに達成した項目のチェックを入れる方法が紹介されています(p.180)。
僕も、3つの日課を終えた時点でカレンダーに緑のシールを貼るようにしました。
(青のシールはまた別の目印です。)
習慣のコンボプラン
僕の3つの習慣のうち、「文をひとつ書き写す習慣」と「本を2ページ読む習慣」については、いい相互作用が働いています。
日々、本を読んで響いたところに付箋を貼っておき、後日それをノートに書き写すというふうに、3つの習慣のうち2つがセットになっているので、結果的に続けやすくなっているのではないかと感じています。
こうした2つの目標の相互作用について、『小さな習慣』の中では「コンボプラン」と呼んでいます(p.186)。
1か月続けて習慣を見直してみる
3つの習慣をひと月ほど続けてきて、スクワットについては再考の余地があるとも感じるようになってきました。
これは運動不足の解消とか体力の維持を最終的な目標として、家の中で気軽にできる運動として始めたものでしたが、いまのところはまだ実感できるほどの効果が得られていません。
毎日「おまけ」も含めて結果的に50回から100回程度のスクワットはしているので、腿の前側が張った状態が常態化していて、筋肉もついてくる気配はあるのですが、それでも運動をしたというほどの実感がないのです。
まあ、そんなこともあり、今月に入ってウォーキング用にシューズを買ったり、スマホに歩数計アプリを入れたりしているので、運動に対する意識がたかまったことは、この習慣のもたらした効用とは言えそうですが。
一定期間続けたところで、この習慣を続けることがいいのかどうか、あらためて考えてみることは有用だと思います。
「なぜドリル」はなぜ必要か
『小さな習慣』では、習慣化したい行為を決めるにあたって、「なぜドリル」というワークをするよう奨めています(p.149)。
「なぜドリル」は、「なぜ」を繰り返すことによって、なぜ自分がそれを習慣づけたいのか、深いところまで自問自答してみる作業のことです。
この自問自答によって、その習慣が自分の心にとって本質的な望みであり、努力する価値があるものなのか、それともそうでないのかを判断することができます。
たとえば、ガイズさんは「毎日何かを書く」ことについて、こう自問自答しました。
私は毎日何かを書きたい。
なぜ?
書くことに情熱を注ぎたいから。
なぜ?
それが自分を表現し、ストーリーを語るための、私がいちばん好きな手段だから。私は書くことを通じて人とつながり、人の役に立てると思っている。そのプロセスを楽しんでもいる。
それがなぜ重要なのか?
私に生きがいを与え、幸せな気分にしてくれるから。
なぜ?
私は書くことが自分の人生にとって間違いなく価値ある宝物だと思っているから。
(pp.151-152)
こうして「なぜ」を繰り返し問うことによって、その習慣が自分にとって本質的で重要なことなのかどうかを確かめていきます。
正直、引用部分の最後のあたりは僕にはトートロジーめいて感じられますが、自分の心に正直に答えた結果、それがポジティブなものだと思えれば、その習慣は努力に値すると考えることができます。
ガイズさんはさらにもうひとつ、「私は毎朝6時に起きたい」という願望についても「なぜドリル」の作業をおこない、最終的にこの願望は周囲の他人の評価に基づいていることに気付き、ややネガティブに、優先順位の低い習慣だと判断しています。
僕は自分の3つの習慣を決めるにあたって、この「なぜドリル」の段階は軽く流してしまいましたが、その習慣が自分にとって最終的にどのような価値と結びついているのかを見極めておくことは、やはり習慣を長続きさせるために大切なポイントなのだろうと思います。
ちなみに僕は、3つの習慣のそれぞれについて、
- スクワット→運動不足を解消する
- 文を書き写す→美しい字を書けるようにする
- 本を読む→買ったまま読んでいない本を消化する
くらいのことを理由として考えていました。
まあ、人生に対する根源的な欲求まで掘り下げてはいないので、浅いといえば浅いですね。でも個人的には、とりあえずこれで十分とは思っています。
先延ばし魔と小さな習慣
小さな習慣に向いていること
前々からしたいとは思っているけど、始めるきっかけがなかったり、おっくうで始められないような事柄は、小さな習慣で始めることに向いています。
しないといけないのはわかっているけどやる気が出ない、エンジンがかからない、というような事柄です。たとえば、ダイエットとか小説の執筆、部屋の片づけなどがそうですね。
小さな習慣は最初のステップを限りなく小さなサイズにすることで、着手にともなう心理的な抵抗感を小さくしてくれますし、その抵抗感は毎日続けることでさらに小さくなっていきます。
先延ばし魔の脳内
TEDに、ティム・アーバンさんによる「先延ばし魔の頭の中はどうなっているか」という、楽しくて誰もが身につまされる動画があります。
(動画右下の歯車マークから、日本語字幕を表示することができます。)
やらないといけないと思いつついつまでも着手できない先延ばし魔の頭の中には、3人のキャラクターが住んでいます。いわく、
- 理性的意思決定者
- すぐにご褒美が欲しいおサル
- パニック・モンスター
の3人(匹)です。
わたしたちは、ある作業について「やりたくねーなー、面倒だなー」と思う度合いが強いほど、この動画の中でいう「すぐにご褒美が欲しいおサル」に脳内のコントロールを奪われやすくなります。
動画で例として挙げられている論文提出などでは「パニック・モンスター」が登場して解決してもらえますが、あとのほうに出てくる「期限の決まっていない仕事」の場合は、パニック・モンスターの助けを得ることができません。
『小さな習慣』は、こうした「やりたいんだけどめんどくさい、始めることができない、期限の定めのない人生上の目標」について、最初のワンステップの抵抗感を最小限にして踏み出させてくれる本です。
小さな習慣にはあまり向かないものごと
習慣化したいさまざまな行為には、大きく分けて、それを続けることでものごとが「上達する」性質のものと、それを続けることでものごとを「達成する」ことを目指すものがあります。
ペン字の練習などの「上達」系の行為は、おおむね小さな習慣に適しているといえると思います。
しかし、「小さな習慣」があまり向いていないものごともあります。それが「達成」系の一部のことがらです。
たとえば上の動画でいう論文提出のような、締め切りのある仕事。
またほかに、一定の期間内にかなりのボリュームの作業量が必要な仕事もそうです。
例としては、受験勉強や、家庭菜園で野菜を収穫することなどがあります。これらは定められたシーズン中に膨大な作業を終らせる必要があり、「小さな習慣」をクリアしていくだけではとても終わりが見えません。
つまり、著者が「おまけ」と呼ぶ部分まで計算に入れないと作業量が全然足りないような事柄では、「小さな習慣」の効果が薄い場合があります。
ただ、やるべきことのボリュームが大きすぎて億劫になって何もしない、という状態から抜け出すのには、「小さな習慣」はとても役に立ちます。腕立て伏せやスクワットも、たった1回だけではほとんど何の筋トレにもならないでしょうが、ともかく、始めるという最大の難所をクリアさせる役割だけは果たせるのです。
誰もが言うように、気分を乗せるためには、まず始めることが不可欠。始めないことにはエンジンはかからないのですから。
そして毎日「始める」ステップを最も簡単にしてくれるのが「小さな習慣」なのです。
小さな習慣とダイエット
ダイエットは、その期限を決めてしまうと、「小さな習慣」の方法論には向いていない目標になるかと思います。
ガイズさんには『小さなダイエットの習慣』という著作もあり、僕は未読ですが、こちらも高評価を得ています。
Amazonの内容紹介やレビューを読む限り、やはり期限を定めない、長期的な人生上の課題としてのダイエットへの取り組み方が書かれているようです。
ついているレビューを超ざっくりまとめると、「長期的に継続できて意志の弱い人にもできる究極のダイエット法について、シンプルで大切なことが書かれている本」、だということなのですが、どんな最悪な日でもできる簡単なことを続けていくのみという基本的な態度は、今回紹介した『小さな習慣』とも一貫しているようです。