本を読んでいてちょっと気になったことがあった。
小説の会話文などでカギカッコを使うとき、前の行で段落が終わっていれば、そのカギカッコもほかの段落のように「1字下げ」して始めるのかどうか。
そういう会話文を小説の本では見たことがないように思ったので検索して調べてみたところ、小学生向けの原稿用紙の使い方のページでは、それが段落の冒頭であれば1字下げにするのが正しいとしているようだった。
でも今回のように一般向けの小説の本の場合には、カギカッコの字下げについて業界でこれと定まった統一の基準はなく、出版社や作家の考えで、それぞれ異なる扱いになっているのが現状のようだ。
- 改行後は1字下げ
- 改行後も字下げなし
両方のパターンがあるらしい。
手持ちの本の中では、岩波文庫がどうやら1字下げる方針のようで、中には1字+半角分下げているものも複数あった(井伏鱒二『川釣り』など)。
カギカッコの1字下げ・半角下げ
実際の出版物でのカギカッコ
今回読んでいたのは、スティーヴン・キングの『ゴールデンボーイ』という文庫本。
そのタイトル作を読んでいておやと思ったところがあったので、引用したい。
新潮文庫/スティーヴン・キング著『ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編』246ページより引用。
まず、改行に続くカギカッコを赤字1で示した。
改行しながら続く会話文のカギカッコは、この高さで揃っている。
しかしその次の行でも一番上にカギカッコがきており(赤字2)、ここだけ左右のカギカッコと高さが揃わず上に飛び出している。
つまり赤字2のカギカッコは、改行に続く行頭のカギカッコではなく、その直前の「少年は父親の顔色を読んでいた。」のあと改行せずにそのまま続けられているものだとわかる。
カギカッコは全角ではなく半角だった
赤字1と2のカギカッコの高さのずれが1字の半分であることから、これらのカッコは全角ではなく、半角だということがわかる。
また同時に、改行後のカギカッコ1は「半角スペース+半角カギカッコ」が使われていることにも気が付く。
文中のカギカッコ
さらにカギカッコ閉じについても、赤字3で示したカギカッコの前後で左右の行とずれがないことから、単独の半角カギカッコ閉じではなく、「半角カギカッコ+半角スペース」であると判断できる。
では、文中でカギカッコを開くときにも同じように半角空けているかというと、そうではなかった。
赤字4で示したカギカッコ開きの前後では、文字がこのように半角分ずれている。
つまり、文中の「カギカッコ開き」は、その上に半角スペースを伴っていない。
このことが赤字1と2の行頭カギカッコの高さの違いを生み出している原因でもある。
少なくともこの作品では、カギカッコの扱いについて次のようなことが言える。
- カギカッコは全角ではなく半角を使っている
- 改行後のカギカッコは1字分ではなく半角下げている
- 文中でカギカッコを閉じるときは閉じたあとに半角空けている
- 文中でカギカッコを開くときだけは、半角スペースを使用していない
何気なく読んでいる小説にもこうした工夫があるのを知り、感心するのと同時に、「書く(入力する)人は面倒そう」とも少し思ってしまった。
追記 さらに検証
もっと単純な規則があるようだ
上記の記事内容を書いたあとに読んだ本で新たに気が付いたことがあったので、書き加えておきたい。
新潮文庫/小川洋子著『博士の愛した数式』37ページより引用。
このページの例では、赤字Aのカギカッコは文中でカッコを開いているのだけど、「ゴールデンボーイ」の時とは違って「半角スペース+半角カギカッコ」になっている。
しかし赤字Bのカギカッコは、Aと同じようにカギカッコ開きなのに、上に半角スペースのない単独の半角カギカッコだ。それを閉じるCは、カッコの下に半角スペースが伴っている。
丸カッコのDとEではそれとは逆に、開くほうに半角スペースが付随し、閉じるほうが単独の半角丸カッコが使われている。
よくよく見てみると、こうした半角スペースの有無は、「そのカッコが句読点に接しているかどうか」で決定されているのではないかと思い当たる。
先の「ゴールデンボーイ」の例も踏まえ、小説の本では、
カッコは半角を用い、基本的に開くときも閉じるときも半角スペースを伴うが、例外としてカッコと句読点の間にはそのスペースを開けない
という法則を帰納的に見いだすことができるかもしれない (検証例が少ないので間違ってるかもしれませんが)。