大人が『語りかける中学数学』でたのしく数学を復習しています

語りかける中学数学

中学数学の復習を始めてみた。

この高橋一雄さんの『語りかける中学数学』は、中学生時代はもう遠い昔に過ぎ去ってしまった大人が余暇で楽しむ数学再入門には、とくにおすすめの参考書だ。

大人のためのエンタメ参考書としては、これに勝るものはないかもしれない。

高橋一雄『語りかける中学数学』は中学数学のやり直しや独学におすすめの一冊

語りかける中学数学

数十年ぶりに数学に触れるにあたり、なるべく易しい参考書を選んでみた。

高橋一雄さんの『語りかける中学数学』。

ぼくの手元にあるのは旧版だけれど、現在は新しい増補改訂版が出ている。

分厚い

このようにかなりボリュームのある参考書だ。

問題に入る前の導入部と説き方の解説がとりわけ懇切丁寧なので、この厚みになっている。

ただし、問題そのものの数は案外少ない。試験対策のためにバリエーションのある問題をたくさんこなしたい人には、別の参考書または問題集を追加するのがよさそうだ。

語りかける文体

この本の冒頭の「はじめに」の中で、著者の高橋一雄さんは、数学の勉強のために最も重要なのは「日本語の理解度」だとお書きになっている。

数学の一つ一つの用語はそれぞれどういうふうに理解すればいいのか、どういうことをこの問題は問うているのか、具体的に例題に入る前に、これからやることの意味を、口語体のやわらかい語り口で説明してくれる。

でもこの参考書で特筆すべきはその文体ではなくて、前提となる知識を問題の中でどのように用いて答えにたどり着けばいいのか、それを読者が納得できるように、文章で丁寧に説明していることだ。語りかける文体はあくまでその手段にすぎない。

ソフトなユーザーインターフェイスを意識して、数学の苦手な人がつまづきがちなギャップを丁寧に埋めた結果、エンタメとしてもすぐれた参考書になっている。「優しい」が「易しい」につながっているのだ。

基礎の基礎から

最初のページをめくると、まずは小学校の算数の復習から始まる。「割り算」はどういうときに使うのか? 分数や少数の「割り算」とはどういうことか?

わかっているつもりのことも、自分の言葉で説明できるかというと、なんだか心もとない。

また、この参考書を一度最後まで通してやってからあらためて序盤のほうを読むと、そこにはまた新たな納得があったりする。

この本は「読む参考書」といえる。最初のうちは紙も鉛筆も使うことはない。

なんとなく苦手な文章題も

読み始めても中学1年の途中くらいまではさすがに簡単なことばかりで、問題が出てきても暗算で答えが出せるものがほとんどなので、鼻歌交じりに進んでいける。

ところがこんな問題が出てくる。

A町からB町を往復し、行きは時速4[km]、帰りは時速6[km]で時間は1時間30分かかりました。A町とB町の距離[km]を求めよう。

5%の食塩水120[g]に食塩を入れ、20%の食塩水を作りたい。このとき何gの食塩を入れればよいでしょうか。

こういうのは、答えと解き方の解説を見る前に自力で解いてみたくなる。

暗算では答えが出せないので紙と鉛筆を使うのだけれど、紙の上で計算をするのも久しぶりなので、おかしな答えが出てしまってやり直したりする。これが案外楽しい。難しいと笑いが出てしまうのはなぜだろう? 割り算の筆算とか、いつ以来か…。

中学レベルでも正解すると嬉しいものだ。自分がやった方法とは別の、もっと簡単なやり方で答えが出せることがわかると、なるほどと感心するし、その「簡単な方法」が、実は高校数学を含めてのちの過程でも多用される、数学の基本的なツールだったりもするのだ。

文章題では、問題文が求めていることを数式で表現できるようになること、つまり日本語の理解と数学的イメージを結び付けられるようになることがなにより大切だ。

この参考書ではどのパートでも、問題に入る前には「語りかける」口調で考え方の説明に十分な分量を割かれていて、「やってることの意味が理解できる」そして「かならず問題を解ける」ので、読んでいくのが楽しい。

なぜこの式はこう変形できるのか、「3以下」と「3より小さい」と「3未満」はそれぞれどういう意味か、この本のなかではそんなことも、語りかける文体で読み物のように読んで理解できる。

すっかり忘れていたこと

中1、中2、中3と進んでいくうちに、ほとんど忘れていたことがザックザックと出てきた。「定数項」なんて、すごく久しぶりに聞いたな。

定数項、重解、平方完成などの用語を含め、その他の公式や定理でも忘れていたものが多数。古い地層の中から過去の遺物を掘り出して修復するような気持ちになった。懐かしいなあ。

忘れていたどころか、知らなかった(教わらなかった?)ようなこともあった。ぼくが中学生のころに授業中ぼんやりしていたのか、昔と今とでカリキュラムが違うのか。

  • オイラーの定理
  • 円に内接する四角形の外角=それと隣り合う内角の対角

などなど。

ぼくは高校では、センター試験(当時)レベルの数学なら平均9割程度は得点できていて、文系志望にしては数学は得意なほうだと思っていたのだけど、昔取ったつもりでいた杵柄も、時の流れにどこへやら押し流されてしまっていた。

いやー、中学の復習から始めて正解だった。

急に数学に苦手意識が出てきた中高生にも

ぼくのようにすっかり錆び付いていた大人ばかりでなく、中学では勉強しなくても点を取れていたせいで、高校に入ってから急に数学が苦手になっている生徒もかなりいるだろうと思う。

中学までなら「解法のパターン」をまったく意識していなくても、ある程度強引な解き方で正解にたどり着けることが多いので。

そういう人もこの本で数学の「使える道具」を入手してから高校数学というフィールドにあらためて向き合ってみると、数学の道の歩き方がずいぶん楽になってるのではないかと思う。

分厚いけれど、高校生ならたぶん1か月かそこらで中学3年分の復習ができるだろう。

ぼくも定理や重要ポイントを紙に書いてまとめたくなってしまう。別にこれからなにかの試験を受けるわけじゃないので、そうする必要は全くないのだけど…。

誤植と不適切な問題

『語りかける中学数学』には誤記/誤植もあった。新しい版が頻々と出ているような参考書ではないという事情もあるかもしれない。

矢印で示した「x」は、本来は「y」。

こういうぱっと見てすぐに気が付く、クリティカルとまではいえない誤植がほかのページにもあった。

幸いというかなんというか、この本では計算過程が省略されず全部書いてあるので、こうしたミスが数式の中にあっても単なる誤植だと気が付きやすくなってはいる。

旧版の初版第9刷では、「x」と書くべきところを「y」と書いている箇所をもうひとつ(670ページ問題(4))、また二乗でないxの肩に2が乗っている誤植もひとつ(630ページ計算式内)発見したけれど、大人がわかっていて使うなら、まあ問題ないレベルかと思う。計算結果が変わってしまうようなミスは、ぼくが見る限りなかった。

ただ戸惑う人もいそうだと思ったのが次の問題。

これは計算過程は合っているけれど、答えが2通りあるうち、[-2,-1,0]のほうは問題文の条件に照らして最後に除外しないといけない。

あるいは、この2通りの答えを出させたいなら、問題文では「他の2つの平方の差より5大きい」と書くのではなくて、「大きい数の平方から小さい数の平方を引いた数より5大きい」と書くのがより適切だろう。

『語りかける中学数学』はぼくが中学生だった昔にはなかったような面白い(そして優れた)参考書なので、このような点は惜しい。まさに「玉に瑕」といえる。

今回ぼくが買ったのは改定前の旧版(中古)で、旧版には正誤表が出ていないようだ。大人が余暇の楽しみとしてやる分にはこうした瑕疵もまあ見逃せるけれど、数学の苦手な中学生・高校生に与えるのであれば、新しい増補改訂版のほうがベターだ。(こちらも誤記はあるが正誤表PDFをダウンロードできるので。)

ぼくは高校生のころ、ファミマに売っていた無印の落書き帳を計算用紙としてよく使っていた。それより一回り小さいA5の落書き帳は、大人にも使いやすい。

 

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