雷鳥社という出版社の本が僕の手元に数冊ある。以前出版社のサイトを見て、気になったものを一度に買ったのだった。
この『渋谷道』も、その中の一冊だ。
紹介を見て興味は持ったものの、Amazonの「星ひとつ」のレビューを見て多少及び腰になったのは覚えている。
しかしそれでも面白そうなので買ってみた。まあ、変わった本であることは間違いない。
今回はこの本をレビューする。
渋谷道 SHIBUYAMICHI レビュー
概要
Amazonの内容紹介にはこうある。
「渋谷区代々木1丁目1番地、2番地、3番地・・・」
東京都渋谷区の地図には総計2862の番地が記載されています。この番地を「全部撮ってこい!」という指令のもと、120人のカメラマンたちは引き返せない旅をはじめました。
基本的にはここにあるとおり、「渋谷区の番地表示プレートを全部撮って載せる」というよくわからないミッションを実行して、曲がりなりにもコンプリートしたのが本書だ。
レビュー
Amazonでこの本についているレビューを引いてみよう。
米太郎
5つ星のうち1.0ただの著者の自己満足本だった。
2014年2月13日
形式: 単行本Amazonで購入
渋谷区の街中を撮り溜めた写真集と思いきや
渋谷区内無数の番地プレートをただ寄って撮っただけの本でした。
(表紙のプレートの写真を並べただけ)
著者としては全街のプレートをコンプリートしたカタルシスがあるのだろうが
見てる側としては「はぁ~~?」って感じです。情景も少し入っているのですがセンスの悪い演出が入っており
作品としても情報としても価値の無い本でした。
(本の重量は無駄にありましたが)送料の1/100以下の価格で売られているのも納得です。
なかなか辛辣な評価である。
そして実際、この本は彼の言う通りの内容でもあるのだ。
・番地プレートを寄って撮っただけ
・センスの悪い演出がある
たしかに事実である。
でもほかのネット書店のレビューなどでは、まあまあな評価を得ていたりもする本なのだ。
画像を2枚、公式サイトから引用する。
こんなふうに、住所別に番地表示プレートを中心にした風景がずらりと並んでいる。
奇書といっていいだろう。
撮影は2004年夏。現時点から見て15年前だ。
いまではハロウィンでお祭り騒ぎになる一晩以外は「老化」したとも言われることがある渋谷だけれど、このときは渋谷もまだ若者の街の雰囲気が濃かったころだろう。
写真の中の風景からは、たしかにあの頃から15年ほどの時は過ぎたのだなと思わせる空気が漂うこともある。
番地プレートの写真にもなにかしら喚起するだけの情報はあるし、1ページに1枚程度はプレートの入っていないカメラマン入魂の街撮り写真もあるので、見ていて飽きるかと思うと案外そうでもない。
結構、じっくり見ていける。
ネタばらしをすると、東京写真学園が渋谷にあり、カメラマンたちはその在校生と卒業生で、巻末にはそのプロフィールも乗っている。実習の一環としても撮られたのだろう。
一見同じような写真が並んでいるように見えても、本のページをめくっていくと、ページごとに写真の雰囲気が違うのがわかる。
丁目ごとにカメラマンも違うのだ。それぞれ一人だったりチームだったりするが、個性の極めて出しづらい被写体に向かい合わされて、しかしそれなりに違いは出ていると思う。
全部魚眼だったり、モノクロだったり。
画角に凝る、時間帯に凝る、色調に凝るなど若者らしい工夫をいろいろやっている。
渋谷駅前の交差点も魚眼で下から見上げたり、上から見下ろしたり。
Amazonのレビュアーがセンスの悪い演出といったものも、ああこれかと思うようなのがある。
人形を必ず入れたり、スカートをめくったモデルを突然入れてみたりしている。まあこれも工夫のあらわれだろう。
さまざまなこうした写真を見ていくと、地元の人や生活している人々を入れて撮った写真はやはりほかの写真家のものと比べて圧倒的に力強いなど、単一のテーマだけにはっきり浮かび上がるいろいろな示唆があるし、単純にある時点の街ぜんたいの一瞬を切り取った記録としておもしろいと思う。
まとめ
インターネット、そしてスマートフォンの普及で出版社の体力がどんどん削られていく中で、思いつきを瞬発力だけで本にしてしまった(?)記録として、この本は貴重なのかもしれない。
ともかくこんな変な本を作っている会社は長続きしてほしいものだ。
雷鳥社はこの時期、『東京職人』とか『東京町工場』とか『東京外国人』とか、真正面から対象に取り組んだいい本も出している。ぜひチェックしてほしい。
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