ちくま日本文学全集。
という、昔出た単行本のシリーズがある。
1991年から刊行された一作家一冊の作品集で、文庫サイズのコンパクトな単行本で扱いやすく、ハードカバーとソフトカバーの中間のような表紙を含めて装丁もいいし、安野光雅氏の装画もいいし、ルビと注釈のみがグレーで印刷された二色刷りの版もいい。もちろん内容もいい…と、これは長年の読書経験を経たいま振り返って感じることだ。
ぼくは浪人生時代に坂口安吾の巻を買ったのを皮切りに1冊ずつ買って読んできて、現在は手元に12冊が残っている。
これらの本は、ぼくが新刊で買って持っている本のなかでも最も長いこと持ち続けている本の一部でもあり、カバーなどはどれもよれよれになっている。
それをいま、断捨離の一環として、スキャンして電子化している最中である。
愛着のある本ではあるのだけど、ダンボールに入れっぱなしにしているよりは、そのほうがアクセスしやすいだろうと考えてのことだ。
えっちらおっちら裁断しながら、この本を買った本屋もなくなってしまったなあなどと考えているうちに、変なことに気が付いた。
あれ? 1ページ目にある紋章のようなマークの数が違う…。
ほかの作家の巻も見てみると、
坂口安吾、ふむ。
稲垣足穂、ふむふむ…。
太宰治、ふむふむふむ……。
ああなるほど、これはひょっとして、と思い当たることがあった。
後ろのページにある既刊と配本予定の印を確認して、やっぱりと得心がいった。
この謎のマーク(なのか、紋章なのか)は、やはり巻の刊行順に一つずつ増えていっているようだ。
いままで全然気が付かなかったな。
筑摩書房のサイトで刊行順を調べてみた。
「ちくま日本文学全集」でサイト内を検索して、刊行順に並べる。
安吾が6つ、百閒が5つ、色川が8つ。間違いない。
それにしても、どの巻もきれいに並べてある。遊び心があるね。
この配置のかっこよさ!(または、小学生っぽさ)。
最多と最少。
なんらかの植物っぽいけど、このマークのモチーフは何だろうか。どうでもいいことに気づいて、新たな謎が残されてしまった。
ちくま日本文学全集は、現在はラインナップを整理して「ちくま日本文学」として、通常の文庫で発売されている。文庫版でもこのマークの遊びが踏襲されているのかどうかは、興味のある人が確認してほしい。