断捨離・片付けに関する本を3冊読んだ。
部屋の片づけがひととおり終わってから読んだので、どれも心穏やかに読むことができたと思う。
今回読んだこの3冊には、偶然にもはっきりした共通点があった。それをひとことでいうなら、「『いまの自分』にフォーカスする」という姿勢だ。
断捨離本3冊それぞれの感想
新・片づけ術 断捨離 やましたひでこ
最初に読んだのは、やましたひでこさんの『新・片づけ術 断捨離』(マガジンハウス文庫)。
これだけ有名になった「断捨離」という言葉を世間に広めるきっかけとなった本なので、期待して読んだ。
そしてその期待にたがわず、文章に熱量のこもった本だった。
逆にいうと、押しが強く、言葉がきつい部分がある。ぼくはすでにきれいに片付いた部屋で読んでいたので、ふんふんとうなずきながら読めたけれども、片付ける前だったら反発する部分も多かったかもしれない。
何年も住まいにあるそれらのモノは、生鮮食料品ではないから腐っていないだけ。機能レベルでは腐敗しています。
こうした言葉に奮起できるならおすすめしたい。
いま持っているモノを減らすという点で、本書は今回読んだほかの2冊とも内容的には共通している。
この本の基本的な哲学は、そのモノといまの自分に生きた関係があるかどうかを、モノを捨てる時の判断基準にするということ。
使えるかどうかではなく、いまの自分が使うかどうか。
いまの自分にふさわしいモノだけを残して、ご機嫌な状態を維持する。
そうした態度や目標を根本に置きながら、それを補強するための考え方や方法論が、一冊を通じて大量に展開されるのが本書だ。
ページをめくるごとにあらゆる観点から「断捨離」の体系が解説されていくのだけれども、正直、1冊の本の内容としては、まとめ切れておらず、とっ散らかっているようだった。
やましたさん自身がお好きなのだろうけれど、あちこちでスピリチュアルなワードが顔を出してくるのもぼくにはちょっと気になる部分だった。
「見える世界を動かすことで見えない世界を変えていく」というテーマが全体に伏流しており、そういう世界観に親和性があるかどうかで本書の受容度も変わりそう。
宇宙からの応援とかサムシング・グレートまで持ち出すにいたっては、説得力を増しているのか、減じているのか。ぼくが編集者なら、その部分は大幅にカットしたいところだ。
見出しや本文中の太字の一部を拾うだけでもこんな感じだ。
- 潜在意識・停滞運・腐敗運
- 相(そう)
- 見えない世界が8割
- 大中小3分類の法則
- 7・5・1総量規制の法則
- 自立・自由・自在の法則
- その都度方式
- オートランの法則
やましたさんがつぎつぎに繰り出すこうした考え方や方法論を全部まるごと受け入れるよりは、断捨離の基本であるところの「そのモノといまの自分に生きた関係があるかどうか」に着目する哲学をしっかりふまえたうえで、参考にできる部分だけをつまみ食いするような読みかたをしたほうがよさそうに思った。
お部屋も心もすっきりする 持たない暮らし 金子由紀子
次に読んだのは、金子由紀子さんの『お部屋も心もすっきりする 持たない暮らし』(アスペクト文庫)。
本書の内容をひとことで表現している部分を引用するなら、
なるべく捨てないようにするために、「持たない」。
という一文になるだろうか。
先に読んだ『断捨離』にあった、「自分とモノの関係を見直す」というフレーズは、この本にも大きな柱として出てくる(出版はこちらの方が先)。
「持たない暮らしとは、心のこもらないモノを持たない暮らし」でもあるのです。
このあたりのフィロソフィーも『断捨離』と共通している部分だ。
しかし、
一日あるいは数日でバッサリとモノを捨て去る外科手術のような方法ではなく、ゆっくりとモノを減らせる「内科的な方法」
というところは、『断捨離』と本書とで大きく違う。
金子さんの文章はおだやかなので、水のように気持ちに浸透してくる。2冊を続けて読むと、剛のやました、柔の金子といった印象が強い。
この本のなかでぼくが気に入ったポイントをいくつか挙げてみたい。
「毎日使うモノの質を上げると、そのことでむしろコストがかかることがある。そこが節約生活と『持たない暮らし』の違い。」
「後ろめたさも一緒に捨てる」
「美術館やホテルのロビーなど、美しい空間に行く」
「ネットショップで安易に物を買わない」
「消耗品は、1個以上のストックをしない」
つい買ってしまいがちな「○○メーカー」といった調理家電を買わずに済ませる方法も紹介されていて面白い。ヨーグルトメーカーを使わずにヨーグルトを作る方法、ホットサンドメーカーや温泉卵メーカーなしでそれらを作る方法など。
持たない暮らしには時間や手間がかかることもある、ということも率直に書いてある本だ。
末尾の章には、おおむねつぎのようなことが書かれている。
100円グッズもあまりたくさんは使いたくない。シャネルやディオールも自分には似合わない。では、どんなモノが私の暮らしにふさわしいのか。どんなモノが、私と友達になれるのか。
それは一朝一夕にわかることではなく、普段からいつも考えていなければならないこと。
持たない暮らしは、ちょうどよく持つ暮らしでもある。そして、この「ちょうどいい」が難しい。だって、平均値もなく、正解もないのだから…。日々の暮らしがそのためのレッスンであり、修行なのだと思うのです。
こうした姿勢に共感できる人に、今回読んだ3冊の中で『お部屋も心もすっきりする 持たない暮らし』をおすすめしたい。
服を買うなら、捨てなさい 地曳いく子
3冊目に読んだのは、地曳いく子さんの『服を買うなら、捨てなさい』 (宝島社文庫)だ。
この本は必ずしも片付け本とは言えないかもしれないが、ファッションに対して定まった態度を持っていなかった僕のような読者には、目から鱗が落ちるような力強いフレーズの宝庫だった。
本書は基本的には、30代を過ぎて若者向けファッションが似合わなくなって、ファッションに対する考えがぐらつき始めた女性を対象にしている本なのだけど、男性でもまったく違和感を持たずに読むことができた。
この本の根本にある哲学は、
「おしゃれな人ほど、少ない服で生きている」
というひとことに尽きているだろう。
ほかにも説得力のあるフレーズがつぎつぎに出てきて楽しめた。本の中からいくつでもピックアップできる。
- 「おしゃれな人」とは、「ダサいものを着ない人」のこと。
- ダサいものを手持ちから排除するだけで、誰でもおしゃれの底上げができる。
- スタートはまず、服を減らすことから。
- バリエーションを広げようとするのではなく、まず定番ものをアップデートする意識で買い物をする。
- 服を買うときは「今週2回以上着たい服」かどうかがキーワード。
- ワードローブに偏りがあるのは失敗ではなく、むしろ成功。
- パンツしか穿けないならパンツばかりでいいし、黒い服が落ち着くなら黒ばかりでOK。
- おしゃれな人は、みんなスタイルを持っている。おしゃれになるということは、自分のワンパターンを見つけること。
- せっかく出かけて行ったのに納得いくものが見つからず、手ぶらで帰ってきたあなたは勇者。
「『同窓会で5位入賞』くらいを目指すのがベスト」というような表現も、具体性があって面白い。
「定番」のとらえかたも、本書を読むことでリフレッシュされたように思う。定番物でも2~3年でアップデートしないとディテールが変わっているので、いつまでも同じ服を着ているといまの服との組み合わせがちぐはぐになってくる、というようなくだりがあった。
「いま」にフォーカスする姿勢が、ここでもやはり前2冊と共通している。
安いから買わなければ損、は間違いで、来年には天気も自分の状況も変わっているのだから、いま着たいもの、明日着たいものでなければ買ってはいけない。
着る頻度を多くすれば、高いものを買ってもコストパフォーマンスはファストファッションに劣らないという部分にも、なるほどと思った。
給料の少ない若い人が財布や名刺入れだけ高級ブランドのものを使っているのは、毎日使うものにお金をかけるという大変堅実な考え方であり、ちっともおかしくない。
地曳さんのこうした考え方は、金子さんの『持たない暮らし』とも響き合っている。
自分の定番服だけでワードローブの基礎を構成しておしゃれな人になるためには、その前の段階として、自分らしいスタイルとはどんなものかを自覚する必要がある。
それは『持たない暮らし』の金子さんがいっていたように、「一朝一夕にわかることではなく、普段からいつも考えていなければならないこと」なのだろう。
でも本書を一読しただけで、思い入れがあるけれど捨てるべき服、魅力的だけれど買うべきでない服だけは、はっきりと判別できるようになった。