このところ冬になると毎年のように、心温まるような短編小説を読んでから寝る習慣になっている。
短編小説といっても、児童文学や昔話などをふくむ易しいものが大半だ。
この数年はとくにストレスの多い世情なので、心が安らぎを求めているのに違いない。
小澤俊夫版のグリム童話を寝る前に読む
冬の習慣
これまでの冬は、あまんきみこさんの『車のいろは空のいろ』シリーズや、安房直子さんの作品集を読んできた。
あまんきみこさんの「白いぼうし」ほか『車のいろは空のいろ』作品一覧
あまんきみこさんの「車のいろは空のいろ」シリーズを通読してみて、とてもよかったので紹介したい。 「これは、レモンのにおいですか?」の書き出しで始まる、小学校の国語教科書にも載っていたあまんきみこさんの「白いぼうし」は、実は運転手の松井五郎さ...
安房直子さんの本を読んだ
ここ数か月、安房直子(あわ・なおこ)さんの短編小説集を読んでいた。 『春の窓』という文庫を購入したのがそのきっかけだ。 この本の2番目に収録されている「あるジャム屋の話」という短編を読み、いっぺんに魅了された。この本は一気に読んでしまうので...
前回の冬は中勘助の『銀の匙』を読んでいた。
そして今年は、小澤俊夫さんの訳による2巻組みのグリム童話集を選んでみた。箱入りで立派な作りだ。
角川版との比較
完訳版のグリム童話は関敬吾さん訳になる角川文庫のものをずっと以前に読んだことがあって、今回はそれとも比較しながら読んでいる。
小澤版の翻訳は文体がですます調になっており、「語り聞かせる文章」が意識されている。
対して関さんの訳は、読む物語としての性格が強い。各話の末尾には、エピソードの構成要素を分類したり、日本の昔ばなしと共通する箇所に触れたりする簡単な解説もつけられていて、興味深い。
また、小澤さんの訳が、グリム兄弟が何度も改定した原典の第二版に基づいているのに対して、関さんの訳は最終第七版を底本としており、元の文章そのものに説明的な叙述が増え、情報量が多くなっている個所がある。
その点でいえば今回読んでいる小澤さんのグリム童話はあっさりしていて原始的ともいえそうで、その一種の素っ気なさがもたらす、伝承や昔話に独特の余韻を強く感じられるのがいい。
また両者では挿絵も違っていて、この点では角川文庫版のほうが点数も多く、絵のテイストも好みだった。
リンク
ちなみにご存じの方も多いだろうけど、訳者の小澤俊夫さんはグリム童話と昔話の研究者で、ミュージシャンの小沢健二さんのお父様でもあります。